反復される漸増漸減型自転車エルゴメーター負荷への心拍応答

Wednesday, 9月 7, 2011


反復される漸増漸減型自転車エルゴメーター負荷への心拍応答

山崎 健(新潟大学教育人間科学部)、蘇日塔拉図(新潟大学教育学研究科)




1 はじめに



最大酸素摂取量の測定には、運動の負荷方法(protocol)が重要であり、ランニングや自転車エルゴメーターなど様々な運動様式と方法で実施されている。

山地(1992)は、運動開始から7~17分間で疲労困憊(exhaustion)にいたる漸増負荷法の連続負荷法(定常状態の有無で2種類)と間歇負荷法について、代表的なBRUCE Protocol、BALKE Protocol、TAYLOR Protocolを示した。

また、最大酸素摂取量の測定には、呼気ガス分析による直接法が最も正確であるが、被験者に「最大努力」「疲労困憊」を求めねばならないため、ÅstrandとRyhmingによって考案されたノモグラムによる間接法についても概説した。間接法は、最大下作業時の心拍数と仕事量が酸素摂取量とほぼ直線的に増加することと同一年齢の最大心拍数は一定であるとの仮説に基づくものであ
り、現在市販されている電磁負荷制御型の自転車エルゴメーターによる「体力判定」はこのことを応用したものである(キャットアイ社技術資料)。最大酸素摂取量は様々な対象について数多くの研究がなされているため、負荷漸増時の心拍応答については非常に多くの報告がなされている。

しかし、負荷漸減中の応答についてはあまり報告されていない。クロスカントリー・スキーでは、競技ルールで全コースの平地・登り・降りの距離がそれぞれ3分の1であることが決められており、それにともないアップダウンのある運動遂行中には負荷漸減型のパターンも発生する。

山崎ら(2005)は、自転車エルゴメーターでの反復される漸増漸減型負荷時の心拍変動について、Akselrod ら(1981)がスペクトル解析で先駆的に示した0.1Hz付近の呼吸反射性成分と0.3Hz付近の血圧反射性成分について検討し、負荷漸増時と漸減時では心拍数の変動とともに瞬時心拍変動のスペクトル成分も大きく変動していること。また、10分1セットで3回反復される負荷‐心拍応答について各セットから求められるPWC(Physical Work Capacity)170の推定値が異なることを報告した。

本研究は、この反復される漸増漸減型負荷変動に対する心拍応答について、セットごとの瞬時心拍変動を含め詳細に検討してその基礎的知見を得ようとするものである。




2 方法



被験者は健康な運動部所属学生8名でそのプロフィールを表1に示す。

被験者のピーク時運動強度(Watts)の推定は、PWC170テストのプロトコールと同様に、自転車エルゴメーターEC1600(キャットアイ)での3分毎に3段階に増加する9分間のステップ負荷により負荷‐心拍応答の一次回帰式から心拍数150bpm(拍/分)相当の負荷を求めた。

3セット繰り返される漸増漸減型のピーク負荷の決定は、事前に求めたPWC150相当の負荷で試行し、最初のセットのピーク時心拍数が140~150bpmになるよう設定した。

被験者は3分間の座位安静時にメトロノームにより4秒で1回の呼吸制御(0.25Hz)を行い、その後自転車エルゴメーターで50W負荷3分間のウォーミングアップ後、1セット10分計3セット30分間の漸増漸減型ペダリング運動を行った。

自転車エルゴメーターACTIVE10(竹井機器工業)は、パーソナルコンピューターによるRS232C制御により漸増漸減型負荷パターンを設定した。

負荷は、ピーク時まで30秒毎に5分間漸増しその後30秒ごとに5分間漸減する10分間を1セットして3セット反復した。また10秒ごとの負荷量と平均心拍数をコンピューターに記録した。瞬時心拍変動における呼吸反射性の影響を考慮して、被験者には運動中1分60回のペダリングにあわせて呼吸する(2秒に1呼吸でほぼ0.5Hz)ように指示した。負荷ピーク時は心拍数150拍/分相当の運動強度であり呼吸リズムを維持することは困難ではない。



 






 



負荷‐心拍応答は、ACTIVE10より10秒間ごとのデータから回帰分析を行い、一次直線回帰式及び決定係数(r2)を求めた。

瞬時心拍変動は、ハーレートメモリS810i(Polar)を用いて胸部電極よりトランスミッターで心電図R-R間隔を記録し、ソフトウェア(Polar: Precision Performance 4.0)を用いて単純高速フーリエ変換(FFT)を行い0.1Hz付近の呼吸反射性成分(LF成分:0.04~0.15Hz)と0.3Hz付近の血圧反射性成分(HF成分:0.15~0.4Hz)を求め、交感神経系の活動を反映するとされるLF/HF比(%)を算出して分析した。



3 結果及び考察



(1)負荷‐心拍応答の回帰分析

事前に測定された負荷-心拍応答から回帰分析によりPWC170の推定値を求めた。その際の決定係数は一例を除きいずれも0.85以上で非常に信頼性の高いものであった。

各セットの負荷量及び心拍数の変動例を図1に示す。いずれの被験者も、漸増漸減型負荷の反復にともないセットが進むにつれて心拍数が増加しかつ負荷ピーク後に心拍数の上昇が観察された。

また、負荷漸増時と漸減時の負荷‐心拍応答の回帰分析により求めた決定係数やPWC150の推定値は、仕事量が同一であるにもかかわらず漸増時よりも漸減時に値が低くなる傾向が見られた。セットごとの負荷‐心拍応答の一例を図2-4に示す。

いずれの被験者においても、第1セットの負荷漸増時と漸減時に顕著な2群化傾向がみられ、第2セットでも同様の傾向が続いている。第3セットでは第2セット終了時の心拍低下があまり顕著ではないことと関連してかその傾向は若干減少する。

各被験者のセットごとの漸増漸減時の回帰分析による決定係数の変化を図5に示す。さらに、負荷ピーク前後の2分30秒の負荷‐心拍応答の1例を図6に示す。

全被験者の回帰分析より得られた2分30秒ごとの決定係数の変化を図7に示す。以上の結果より、負荷漸増時と負荷漸減時における心拍応答の様相の違いは、負荷ピーク後に負荷が減少するにもかかわらず心拍数が低下しないことが大きな要因と考えられる。

早野(1996)は、心拍変動による心臓自律神経活動評価の原理を、走っている車のアクセルとブレーキにたとえ、交感神経活動と心臓迷走神経活動が異なる伝達特性を有し、交感神経による心拍数調節は0.15Hz以上(周期6.7秒以上)であるのに対し、心臓迷走神経は1Hz前後の心拍変動まで伝達することを指摘している。



 






 


このことは、負荷ピーク後に心拍数が減少しない要因として、1)ピーク時までの酸素需要量の補填のため、2)伝達特性の遅い交感神経活動の残存の影響、の両者が関与している可能性を示している。

(2)瞬時心拍変動のスペクトル解析

亀谷(1992)は、心拍変動のパワースペクトル

解析について、体温調節に関連する0.05Hz、血圧フィードバック調節に関連する0.10Hz、呼吸周期と関連する0.12-0.50Hzを中心としたスペクトル成分が、副交感神経ブロックにより高周波成分が消失し、交感副交感神経ブロックにより中周波及び低周波成分が消失することを概説した。

中村(1994))は、Yamamotoらの換気閾値の30%~110%に相当する5種類の運動強度と心拍変動指標(HI、LO、LO/HI)との関連を引用し、非常に弱い運動は「副交感神経系優位」、中くらいの運動は「どちらともいえない」、強い運動は「交感神経系が賦活する」という対応可能性を指摘した。


 






 





そして、心拍変動を用いた自律神経活動の評価法について(2001)、心拍変動のFFT法(高速フーリエ解析法)では、0.15Hz以上をHF(高周波成分)、0.05-0.15HzをLF(低周波成分)、0.05Hz以下を自律神経系が関与しないVLF(超低周波成分)として、HFは副交感神経系活動+α(誤差)を、LFは副交感神経系活動+交換神経系活動+αとして、LF/HF比が交感神経系活動を反映する可能性を指摘した。

本実験での30分間の負荷漸増漸減時の2分30秒ごとの心拍変動のスペクトル解析の結果を図8-15に示す。(▲マークはピーク後の負荷漸減時2分30秒区間)

HF成分は、3名の被験者(Sub.B、Sub.G、Sub.H)の第3セットのピーク後を除き、ピーク前の負荷漸増時と比較してピーク後の負荷漸減時ではいずれも減少しておりその際に平均心拍数は上昇している。

これに対してLF/HF比の変動は、ピーク前の負荷漸増時と比較して漸減時には減少する場合が多いがSub.Eはあまり変動せず、Sub.F、Sub.Gは上昇する場合もみられ、その際のHF成分は減少している。

またピーク後の負荷漸減時以外の区間ではLF/HF比の増減に対応して拮抗的にHF成分も増減する区間もみられたが、協同的に増減する場合もあり一定の傾向はみられなかった。山地ら(1993)は、トレッドミル走を用いて最大酸素摂取量の30%、50%、70%、90%及び100%と8分間ずつ増大する負荷テストを行い、そのパワースペクトルを解析し、Lo、HiおよびLo/Hi比は運動強度の増大とともに減少することを報告した。

山崎ら(2006)は、早野の示した交感神経活動と心臓迷走神経活動の伝達特性を検討するため、長距離ランニング中に800mごとにペースを変化させ、交感神経活動と副交感神経系活動を反映するとされるLF成分、副交感神経活動反映するとされるHF成分及び交感神経活動を反映するとされるLF/HF比を記録した。そしてHF成分はペースアップにより減少しペースダウンにより増加するのに対し、LF/HF比はペースアップ以前に「予測的」に上昇する例とペースアップ後に「対応的」に上昇する例があることを報告した。

以上のことから、HF成分とLF/HF比は、安静時には機械論的に単純に「拮抗的」に活動する場合も考えられるが、運動実施時には伝達特性の違いによる位相遅れや呼吸反射性の影響、ピーク前の酸素需要量の補填など他の様々な要因が複雑に関連して変動している可能性が考えられる。今後運動強度のパターンをPWC130やPWC170に変化させ呼気ガス分析による酸素需要量の変動等の指標も含め総合的に検討してゆくことが必要と思われる。



 



4 まとめ

本研究では、自転車エルゴメーターによる漸増漸減型負荷変動に対する経時的心拍応答について、回帰分析と瞬時心拍変動を求め以下の結論を得た。

・ 仕事量が同一であるにもかかわらず負荷漸増時と負荷漸減時では心拍応答の様式が異なっていた。

・ 負荷ピーク前2分30秒の心拍応答の回帰分析から求めた決定係数は非常に高い傾向にあった。

・ ピーク後2分30秒は、負荷が減少しているにもかかわらず心拍数は低下せず、その結果決定係数は著しく低くなった。

・ その際の瞬時心拍変動スペクトル解析の結果HF成分はいずれも減少している傾向にあった。

・ LF/HF比は、負荷漸減時に低下する場合が多いが増加する例も見られた。

・ HF成分とLF/HF比は、安静時には拮抗的な副交感神経(心臓迷走神経)活動と交感神経活動を反映するとされているが、運動実施時には他の要因も含め複雑に変動しているものと思われる。



本研究の一部は、日本体育学会第57回大会(弘前大学:2006年8月)で発表した



 






 



 






 



 






 



<文献>

1. Akselrod S, et al.(1981): Power spectrum analysis of heart rate fluctuation: a quantitative probe of heart-to-beat cardiovascular control, Science 213, pp.220-222

2. 亀谷 学(1992)、自律神経評価法、臨床スポーツ医学 Vol.9(8)、pp.854-857

3. 津山金属株式会社、キャットアイ・エルゴサイザーQ&A

4. 中村好男(1994)、心拍変動パワースペクトルからみた自律神経活動、体育の科学 Vol.44(6)、pp.432-436

5. 中村好男(2001)、心拍変動を用いた自律神経活動の評価法、加賀谷・中村編「運動と循環」、NAP、pp.93-106

6. 早野順一郎(1996)、心拍ゆらぎと自律神経、Therapeutic Research Vol.17(1)、pp.163-235

7. 山崎 健・杉本英夫・加名生さやか・馬場裕子(2005)、瞬時心拍変動による運動経過の記録、新潟大学教育人間科学部紀要・自然科学編 第7巻2号、pp.157-169

8. 山崎 健・馬場裕子・ソリタラト・岡本芳三(2006)、長距離ランニング中のペース変化と瞬時心拍変動、新潟大学教育人間科学部紀要・自然科学編 第8巻2号、pp.109-123

9. 山地啓司(1992)、最大酸素摂取量の科学,杏林書院,pp.3-54

10. 山地啓司・梅野克身・塚原勝行・川崎匡(1993)、トレッドミル走行時における心拍変動のパワー・スペクトル解析、J.J.Sports Sciences Vol.12(8)、pp.531-537