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運動が脳に与える影響:トレーニングで賢くなれるのか?

ランニングやボート、ヨガなどの運動を数時間行った際には、同時に私たちの心も活動していたことを知っておくのは良いことではないでしょうか。運動は気分をリフレッシュさせるだけでなく、記憶力や集中力を高めるのにも役立ちます。

つまり運動している間、私たちの脳ではいったい何が起こっているのでしょうか。スポーツと運動医学の専門家であり、脳の健康の第一人者である Teemu Vornanen は、運動が脳にどのように影響を与えているのか、また現在から未来にかけて共に認知機能を強化するために何ができるかについて、科学的な詳しい話を教えていただきました。

私たちが運動をしているとき、脳では何が起こっていますか?

脳は、あらゆる刺激や入力が生涯を通して脳を形作り、また再形成できます。

運動時には、血流が増加することで気持ちが高まることを、私たちは知っています。このような身体の感覚に加えて、興味深いことに、運動が無意識のうちに私たちの脳に、これよりもはるかに大きな影響を与えていることが研究によって示されています。

概要を把握するために、まずは重要なところから始めましょう。まず初めに、脳はあらゆる刺激や入力が生涯を通して脳を形作り、また再形成できるという意味で、プラスチックのようなもの(リサイクルできる)であると言えます。神経生物学的レベルでは、このような再編成は、神経発生(新しいニューロン/神経細胞の生成)と神経可逆性(ニューラルネットワークの成長と改善)から生じます。

では、これらのプロセスは運動によってどのような影響を受けるのでしょうか。科学者は主に脳で起こる4つの異なるレベルの変化に興味を抱いています。

1) 分子や細胞の変化は、広範囲での神経栄養(成長)因子を介する重要なメカニズムです。以下のことが含まれます。

  • 脳由来神経栄養因子(BDNF):ニューロンの成長を促進するタンパク質。これは脳の自然の肥料のようなものであり、学習や記憶、メンタルヘルスに影響を与えます。
  • インスリン様成長因子1(IGF-1):学習過程において、BDNFと一緒に働くタンパク質。またインスリンと連携してブドウ糖を脳に運びます。
  • 血管内皮細胞増殖因子(VEGF):血管の形成を促進させるタンパク質。これは血管新生と呼ばれるプロセスであり、新しい細胞には新しい血管が必要になるため、非常に重要です。

2) 神経伝達物質は、体内の化学伝達物質です。これらの分子がなければ、細胞から他の細胞へ伝達が行われなくなります。下記がその主な例です。

  • セロトニン – 幸せホルモンとも呼ばれる脳内ホルモンで、認知や報酬、学習、記憶を強化します。
  • ドーパミン – 意欲ややる気、幸福感を得る脳内ホルモンで、同じ体験を繰り返すよう促します。
  • ノルアドレナリン –  ストレスを感じた時に出るホルモンで、アドレナリンと連携して心拍数を上げたり、心臓からの血液の送り出しを維持します。

私たちが運動すると、これらのホルモンはすぐに放出され、気分を整えたり、集中力や記憶力を高めたりします。

3)  機能的、構造的な脳の変化は、運動をするときに生じ、脳の形態(形や構造)や連携性に影響を与えます。これは主に脳の2つの重要な部分で生じます。

  • 前頭前皮質 – 前頭葉に位置する脳のこの領域は、意思決定や複雑な計画をたてたり、個性を表現したりするために使用されます。
  • 海馬 – 側頭葉に位置する脳のこの領域は、新しい記憶を保存する場所です。

運動は、脳のこれら両方の領域の灰白質の量を増加させます。つまり、それらのサイズが増え、他の領域への接続が強化されます。またそれぞれストレスや感情を処理するのに役立ちます。そしてそれがうまく機能するほど、それらの強い感情をより効果的に処理することができるようになります。また運動は、これらの領域により多くの酸素や栄養素を届け、老廃物除去の改善に役立ちます。

4) 運動をすると、社会情緒的変化が起こり、睡眠のストレスや気分等に加えて、記憶、注意力、意思決定などの認知機能に影響を及ぼします。

脳は、脳に直接影響を与えるだけでなく、高血圧やインスリン抵抗性などの認知機能低下の関連リスクも減少させます。(脳機能障害や神経変性のリスクを高めるために収束するメタボリックシンドロームの構成要素)

したがって、これらすべての異なるプロセスから、運動が様々な方法で脳にどのように影響を与えているかを知ることができます。

how exercise affects the brain

脳の機能を高めるにはどんな運動がありますか?脳を鍛えることはできますか?

ヒップホップダンスやスケートボードなどのフリースタイルの運動は、脳にとって特に有益である可能性があります。どのくらい脳が関与し、また脳にどれだけ創造性を発揮させるかに関連しています。

確かなことは、運動は根本的に心への薬となるので、身体を鍛えることで心も元気になります。

あなたにとってのベストな運動は、自分が好きな運動であること、そして楽しめることがとても重要です。毎日30分の散歩でも脳にとって良いです。

定期的な(心拍数を上げる)有酸素運動は、強度のレベルが上がると成長要因や神経化学物質が増えるため、脳に適しています。これはあなたのストレスレベルや学習、記憶力に良い影響を与えます。

HIITは、低強度の有酸素運動と比較して、内皮機能の増加など様々な種類の利点をもたらすことが示されており、脳に運動させるための良い方法です。(Petrick et al. 2020)

筋力トレーニングは、正しく行われた場合には、実行機能の改善を伴う、特に前頭葉での脳の機能に良い影響を与えることが示されており、非常に良い方法です。(Herold et al. 2019)

ヒップホップダンスやスケートボードなどのフリースタイルの運動は、脳にとって特に有益である可能性があります。どのくらい脳が関与し、また脳にどれだけ創造性を発揮させるかに関連しています。

どのような動きでも良いです。サイクリングやボクシング、サルサダンスなど、高強度の動きはさらに優れています。週に2,3回の高強度の動きを取り入れた運動を組み合わせると、全体として最良の結果をもたらします。様々に変化を取り入れることが重要です。例えば汗をかくような運動が最ですが、毎日行う必要はありません。

脳に対する運動の短期的、長期的効果の違いはありますか?

たった2分の運動でも、注意力や学習能力の結果をすぐに改善できます。

これらの利点の多くは、長期にわたる定期的な運動の結果であり、数週間から数カ月の実施が必要です。

しかし短時間の運動でも効果はあります。情報処理や注意力、記憶力、問題解決能力、意思決定など、これらは運動後最大2時間で改善されます。

創造性は運動直後に増加する可能性があります。(Frith et al. 2019)
これは事例証拠(ニーチェやアインシュタインらの素晴らしい考えからも)裏付けられています。散歩は思考することに最適な方法です。2分間の運動でも、注意力や学習結果をすぐに改善できます。(Blomstrand & Engvall 2020)

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運動はあなたをより賢くしますか?記憶力や集中力を高められますか?

これは遺伝的要素が強いため、運動ではおそらくあなたをさらに賢くすることはできませんが、長期にわたっての認知機能の維持に役立ちます。

いれは遺伝的要素が強いため、運動ではおそらくあなたをさらに賢くすることはできませんが、長期にわたっての認知機能の維持に役立ちます。認知機能の低下は、加齢とともに急速に加速します。脳の健康を維持する最善の方法は、身体的な運動をすることです。最初に述べたように、私たちの脳は生涯を通じて再形成可能なため、何歳でも、運動は脳に良い効果を与えます。

学習の課題の直前に運動することは、後でこの情報を思い出すのに役立つことが示されています。そのため、新たに難しいことを学ぶ直前に、運動によるリフレッシュを活用してみませんか?運動は「集中力を高められるサプリ」のようなものです。炭酸水を飲んだ時のようなイメージで、同じような効果を得ることができると想像してみてください。これは誰もが生活に取り入れられる役立つ方法です。

運動による、脳やその化学反応におけるマイナスの影響はありますか?

勉強の直前と直後に、低強度のトレーニングを行うことが最善の方法です。

やりすぎは逆効果です。運動のやりすぎによって、身体を慢性的なストレスにさらすのはよくありません。運動効果には行う上限があります。

たとえば、ウルトラマラソンの場合、コルチゾール(副腎皮質から分泌されるホルモンの一つ)の数値が上昇したままになる可能性があり、その結果、記憶機能が一時的に止まってしまう可能性があります。

いくつかの激しい運動では、トレーニング後の時間帯によって、脳に様々な影響があります。たとえは、HIITを行った直後は、かなり疲れを感じており、考えごとには向かないでしょう。勉強の直前と直後にトレーニングを行うのが最善です。ただし、ある研究(van Dongen et al. 2016)では、激しい運動を行った場合には、直後ではなく4時間後に学習結果が実際に向上することを示しています。ただし運動と脳に関するこれらの時間の関係性については、さらに多くの研究を行う必要があります。

参考文献

Petrick, H. L., King, T. J., Pignanelli, C., Vanderlinde, T. E., Cohen, J. N., Holloway, G. P., & Burr, J. F. (2020). Endurance and Sprint Training Improve Glycemia and VO2peak, but only Frequent Endurance Benefits Blood Pressure and Lipidemia. Medicine and Science in Sports and Exercise

Herold, F., Törpel, A., Schega, L., & Müller, N. G. (2019). Functional and/or structural brain changes in response to resistance exercises and resistance training lead to cognitive improvements–a systematic review. European Review of Aging and Physical Activity, 16(1), 1-33.

Frith, E., Ryu, S., Kang, M., & Loprinzi, P. D. (2019). Systematic review of the proposed associations between physical exercise and creative thinking. Europe’s Journal of Psychology, 15(4), 858-877.

Blomstrand, P., & Engvall, J. (2021). Effects of a single exercise workout on memory and learning functions in young adults—A systematic review. Translational Sports Medicine, 4(1), 115-127.

van Dongen, E. V., Kersten, I. H., Wagner, I. C., Morris, R. G., & Fernández, G. (2016). Physical exercise performed four hours after learning improves memory retention and increases hippocampal pattern similarity during retrieval. Current Biology, 26(13), 1722-1727.

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ポラールのブログで紹介される内容は、必ずしも全ての方に当てはまるわけではございません。新しいトレーニングを試す際には、事前に医師やトレーナーと相談してください。

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